「学校に行けない日が続いている。このままで勉強は大丈夫だろうか」
お子さんが学校に行けなくなったとき、保護者の方が抱える心配の一つが、学習のことではないでしょうか。
けれど私は、「学校に行けないこと」と「学べないこと」は、同じではないと考えています。
学校から離れている時期にも、その子に合った方法とペースがあれば、学びを続けることはできます。
そして、その学びは単に「遅れを取り戻す」ためだけのものではありません。
自分で目標を見つけ、自分なりの方法でそこへ向かっていく。そんな力を身につけることは、将来、自分の力で歩んでいくための土台にもなると思っています。
そんな学びを支える場所をつくりたい。
それが、「自立学習サポート あすなろ」を始めた出発点です。
教員として、不登校の生徒と関わってきて
私は30年間、中学校・高校の教員として、多くの生徒と関わってきました。
その中には、さまざまな理由から学校に通うことが難しくなった生徒たちもいました。
家庭訪問をしたり、保護者の方と面談を重ねたり、進路について一緒に考えたりすることもありました。また、学校の中に生徒が安心して過ごせる場所をつくる取り組みにも関わってきました。
そうした経験を通して感じてきたのは、不登校の状況は一人ひとり違い、「こうすれば解決する」という一つの答えがあるわけではないということです。
学校へ戻ることを目標にできる生徒もいれば、まずは心や生活を整えることが必要な生徒もいます。学校とは別の場所で、自分なりの学び方を見つけていく生徒もいます。
だからこそ、大人の側が決めた道へ急いで戻そうとするのではなく、本人の今の状態を見ながら、その子にできる一歩を一緒に探していくことが大切なのだと考えるようになりました。
そして、もう一つずっと気になっていたのが、「学び」の問題です。
学校に行けない期間が長くなるほど、
「勉強が遅れてしまった」
「どこから始めればいいのかわからない」
「もう追いつけないのではないか」
そんな不安を感じる子どもや保護者の方もいます。
しかし、学ぶ場所は学校だけではありません。
その子が今いる場所から、今できるところから、学びをもう一度始めることはできる。
私は、そのための選択肢がもっとあってもよいのではないかと考えてきました。
私自身も、高校を中退しました
実は、私自身にも高校を中退した経験があります。
希望していた学校に進学できず、入学したときから学校生活への意欲はあまり高くありませんでした。加えて、毎朝ラッシュアワーの電車で通学することにもストレスを感じていました。
しだいに遅刻することが増え、遅刻するくらいならと、そのまま学校を休んでしまうことも増えていきました。
学校を休めば、当然、授業についていくことも難しくなります。授業がわからなくなれば、ますます授業はつまらなくなり、さらに学校へ行きたくなくなる。
そんな悪循環に入っていきました。
やがて出席日数が足りなくなり、留年することが確実になりました。
当時の私は、「ここからもう一度やり直すことは無理だ」と考え、高校を中退しました。
高校を辞めたあと、しばらくはアルバイトをして過ごしていました。
そんなあるとき、ふと、
「10年後、20年後、自分は何をしているのだろう」
と考えるようになりました。
その頃、立ち寄った書店で偶然「大検」という文字を目にしました。当時の大学入学資格検定、現在の高等学校卒業程度認定試験にあたるものです。
手に取って調べてみると、高校を辞めても、大学へ進む道があることを知りました。
学校にいた頃は、授業や宿題にはどうしても身が入りませんでした。
けれど振り返ってみると、勉強することそのものが嫌いだったわけではありません。
「もう一度、勉強してみようか」
そう考えるようになり、大学についてもいろいろと調べ始めました。
その中で目に留まったのが、教員を養成する教育学部でした。
自分と同じような子どものことを理解できる教員が必要なのではないか。
そう考え、教育学部への進学を目標に、大検、そして大学受験に向けて独学で勉強を始めました。
誰にも教わらずに勉強することは、決して簡単ではありませんでした。
それでも、不思議と辛くはありませんでした。
むしろ、自分で目標を決め、そのために必要なことを考え、一つずつ前へ進んでいくことに、自分の手で自分の将来をつくっているような手応えを感じていました。
その後、大検に合格し、大学受験を経て教育学部へ進学しました。そして大学卒業後、教員採用試験を経て教職に就きました。
「自分のために学ぶ」ということ
今振り返ると、この経験は「あすなろ」が大切にしていることの原点になっています。
私は、高校を辞めたことで学ぶことをやめたのではありませんでした。
むしろ学校を離れたあと、自分なりの目的を見つけたことで、初めて**「自分のために学ぶ」**という感覚を持てたように思います。
もちろん、これはあくまで私自身の経験です。
私の経験を、そのまま現在の不登校の子どもたちに当てはめることはできません。不登校になる理由も、置かれている状況も、一人ひとり違います。
だから、「学校に行かなくても大丈夫」と簡単に言いたいわけでも、「一人で勉強すればいい」と言いたいわけでもありません。
ただ、自分自身の経験から、確かに言えることがあります。
学校から離れることと、学ぶことをあきらめることは、同じではありません。
学ぶ場所や方法が変わっても、自分に合った道を見つけ、自分のペースでもう一度歩き始めることはできます。
そして、その最初の一歩を一人で踏み出すことが難しい子どもに、そばで伴走する大人がいれば、選択肢はもっと広がるのではないか。
そう考えるようになりました。
学校を離れた子どもたちは、どこで学ぶのか
私が教員として働いてきた30年の間に、子どもたちを取り巻く環境は大きく変わりました。
その中で、私が強く感じている変化の一つが、不登校の子どもたちの増加です。
もちろん、不登校が増えている理由を一つに決めることはできません。
子どもが学校へ行けなくなる背景は一人ひとり異なり、さまざまな要因が複雑に重なっています。
ただ、長く学校現場に身を置いてきた者として感じるのは、かつてのように、すべての子どもにとって**「学校に通うことが疑いなく正しい」という前提そのものが変わりつつある**ということです。
学校が合わなければ、いったん学校から離れる。
学校以外の場所で過ごす。
別の方法で学ぶ。
そうした選択は、以前ほど特別なものではなくなってきました。
私は、それ自体を否定的に捉える必要はないと思っています。
むしろ問題だと感じるのは、学校を離れたあと、その子がどのように学びを続けるのかという選択肢が、まだ十分に用意されているとは言えないことです。
学校へ行かなくなったことで、学びまで止まってしまう。
あるいは、本人が「もう勉強には戻れない」と思ってしまう。
そこに、私が「あすなろ」を始めようと考えた理由の一つがあります。
ICTが広げた、学校以外で学ぶ可能性
一方、この30年間でもう一つ大きく変わったのが、ICTを取り巻く環境です。
パソコンやインターネットが身近なものになり、スマートフォンを利用する中学生・高校生も珍しくなくなりました。
さらに、コロナ禍を経て学校教育のICT化は急速に進み、今では一人1台の端末を使って学ぶことが、学校の日常の一部になっています。
これは、学校に通うことが難しい子どもたちにとっても、大きな可能性を持つ変化だと私は考えています。
自宅から学習教材を利用することができる。
わからないところまで戻って学び直すことができる。
離れた場所にいる人と画面を通して話すことができる。
「学校へ行かなければ学べない」という時代ではなくなりつつあります。
しかし、ここにも一つ課題があります。
学べる道具があることと、自分で学べることは同じではありません。
パソコンも、インターネットも、優れたオンライン教材も、それだけで子どもが学び始め、学び続けられるようになるわけではありません。
「何から始めればいいのかわからない」
「一人ではなかなか続かない」
「勉強していない期間があって、どこまで戻ればいいのかわからない」
そんなとき、本人と一緒に現在地を確かめ、無理のない目標を考え、できたことを振り返りながら、次の一歩を一緒に探す人が必要なのではないか。
ICTによって「学校以外でも学べる環境」が整ってきた今だからこそ、そこに人が伴走する意味がある。
それが、「自立学習サポート あすなろ」で実現したいことです。
「教える」だけではなく、「自分で学べるようになる」ために
私自身、高校を中退したあとに独学を始めたとき、誰かに決められた勉強をしていたわけではありませんでした。
自分で目標を決め、そのために必要なことを調べ、計画を立てる。うまくいかなければ、やり方を考え直す。
その繰り返しでした。
その経験と、その後30年間の教員生活を通して、私は「何を教えるか」と同じくらい、**「自分で学べるようになること」**が大切なのではないかと考えるようになりました。
もちろん、最初から一人でできる必要はありません。
一緒に目標を考える。
今日取り組むことを決める。
わからないところを一緒に整理する。
できたことを振り返る。
そうした経験を少しずつ積み重ねながら、やがて、
「今日はこれをやってみよう」
と自分で考えられるようになる。
その成長を支えることが、「自立学習サポート あすなろ」の目指す学習支援です。
保護者の方にも、伴走したい
また、不登校の問題を考えるとき、子どもだけでなく、保護者の方への支援も大切だと考えています。
「このままで大丈夫なのだろうか」
「勉強をさせた方がいいのだろうか」
「高校へ進学できるのだろうか」
子どものことを大切に思うからこそ、さまざまな不安が生まれます。
その不安を保護者の方だけで抱えるのではなく、お子さんの学習状況や小さな変化を共有しながら、一緒にこれからを考えていきたいと思っています。
そのため「あすなろ」では、子どもへのオンライン学習支援だけでなく、保護者との面談や学習状況の共有も、支援の大切な一部と考えています。
「あすなろ」という名前に込めた思い
「あすなろ」という名前は、井上靖の小説『あすなろ物語』から着想を得ました。
あすなろは、「明日は檜になろう」と願う木として語られます。しかし物語の中では、そう願いながらも、あすなろは檜にはなれないということも語られています。
私はそこに、とても大切な意味があるように思っています。
「何かになろう」と努力したからといって、必ず思い描いた通りの自分になれるとは限りません。
それでも、自分なりの目標を見つけ、そこへ向かって一歩を踏み出すこと。
うまくいかなければ立ち止まり、また考え、自分なりの道を探していくこと。
その過程には、たとえ最初に思い描いた場所へたどり着かなかったとしても、大きな意味があるのではないでしょうか。
私自身、高校を中退したあと、自分の将来について考え、もう一度学び始めました。
そのとき、その先にどんな人生が待っているのかなど、もちろんわかりませんでした。
ただ、自分で目標を見つけ、自分の意思で学び始めた。
その経験は、その後の私の人生につながっています。
子どもたちにも、「こうならなければならない」という一つのゴールを求めるのではなく、自分なりの「こうなりたい」を見つけてほしい。
そして、その方向へ自分の力で少しずつ歩いていけるようになってほしい。
何かになることだけではなく、何かになろうとすることを大切にしたい。
そんな思いを込めて、「自立学習サポート あすなろ」と名付けました。
学校に行かなくても、学ぶことをあきらめない。
学校に行けなくなることは、子どもにとっても、保護者にとっても、大きな出来事です。
けれど、それによって、その子の学びや将来まで閉ざされるわけではありません。
学校とは違う場所で学んでもいい。
少し休んでから始めてもいい。
前の学年の内容まで戻ってもいい。
一日にできることが、ほんの少しでもいい。
大切なのは、誰かと比べることではなく、自分の現在地から次の一歩を見つけることだと思います。
私自身がそうだったように、その一歩がどこにつながっているのかは、今はまだわからないかもしれません。
だからこそ「あすなろ」では、答えを先回りして与えるのではなく、子どもと一緒に考えながら、その子自身が学ぶ力を少しずつ身につけていくことを支えていきたいと考えています。
学校に行かなくても、学ぶことをあきらめない。
これが、「自立学習サポート あすなろ」の出発点です。

